身体拘束の判断基準と回避策|特養10年の実体験から学ぶ工夫と支援例

介護の知識と制度

🛏️ 身体拘束は“やむを得ない”ではなく“避ける努力”が前提です

介護の現場で最もデリケートで、かつ深く考えさせられるテーマのひとつが「身体拘束」です。これは本当に難しい問題です。

「転倒が怖いから、行動を抑制してしまった」
「家族の希望で、ベッドに縛らざるを得なかった」
「人手が足りず、見守りが困難だったから」

そんな“やむを得ない選択”を、あなたも一度は経験されたことがあるのではないでしょうか。介護の現場で働いてきた人間にとって、何を重要とするかは様々です。よって、価値観のずれなどがしょうじ「仕方ない」と判断してしまうことがあるのです。

私自身、特養で10年働く中で、身体拘束について悩み、苦しみ、たくさんの後悔もしました。

ですが今では、「どうすれば拘束をせずに支えられるか」という視点がケアの質を大きく変えると感じています。拘束は利用者さんだけでなく、職員にとっても負担が大きく、安易に講じていい対策ではありません。

この記事では、現場でよくある身体拘束の判断に迷う場面や、法的な位置づけ、そして“減らすための具体策”まで、実体験とともにお伝えしていきます。


⚖️ 身体拘束とは?制度と定義をあらためて確認

厚生労働省が定義する「身体拘束」は以下のようなものが該当します:

  • ベッドに体を固定する
  • 車椅子に縛りつける
  • 徘徊を防ぐためにドアを施錠する
  • 手足の自由を奪うミトンの使用
  • ナースコールを取り上げる

これは、介護保険施設での原則禁止事項とされ、やむを得ないと判断されるためには、以下の三要件をすべて満たす必要があります:

  1. 切迫性(本人や他者に危険があり、緊急で対応しなければならない)
  2. 非代替性(他に手段が考えられない場合)
  3. 一時性(やむを得ず、一時的であること)

身体拘束は、絶対にしてはいけないわけではありません。ですが、医師やご家族との入念な打ち合わせと、慎重な判断が求められます。

三要件を満たしていればいいとはいえ、その基準は難しいものであるといえます。


よくある現場の葛藤とケース例

「何度も転倒して骨折しているから、これ以上は危ない」
「ご家族が“拘束してでも安全を”と強く要望している」
「認知症が進んで、徘徊が止められない」

こうした場面で、「拘束が必要かもしれない」と判断してしまいそうになることがあります。特に、ご家族からの要望であれば、対応せざるを得ないと考えている方も多いと思います。

でも、そこで一度立ち止まることが重要です。身体拘束を対策として考える人の多くは、ほかの対応策をあまり考えられていないことがあるからです。


🔑 代替手段を徹底的に検討する

以下にあげる例など、代替案をまずは考えてみましょう。

  • センサーマットや見守りカメラの活用:起きだしや、動き出しを把握することで、職員がかけつけ事故を未然に防ぐことが出来ます。
  • ベッドの高さ調整/転倒防止のマット設置:おひとりで動いてしまい、危ない場合でも、ベッドを下げたり、転倒した先にマットが敷いてあれば、事故の被害を最小限に抑えることができます。
  • 夜間巡視の頻度アップ:特に、徘徊が多い方や、夜間浅眠な方などは巡視の頻度を上げることで未然に事故を防ぐことができます。
  • 個別アセスメントでの環境整備:個別にアセスメントを行うことで、生活リズムや「何時にこんなことをしてい」などが見えてきて、それぞれに対応しやすくなります。

こうした「先手の支援」を行うことで、拘束という選択を回避できるケースが数多くあります。

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🤝チームで話し合い、記録する

身体拘束を回避するには、個人では限界があります。ぜひ、自分の担当するフロアやユニットで話し合ってみましょう。

  • カンファレンスで事例の共有を
  • 拘束回避策の記録(なぜ拘束ではない選択をしたか)
  • ご家族への説明と同意の取得

話し合いを重ね、対応策を講じます。その際に“記録を残す”ことは、自分を守る意味でも大きな武器になります。


✨ケアの質を高める視点を忘れない

「転倒を防ぐ」ことが目的ではなく、「その人らしい生活を守る」ことが目的です。身体拘束を避けるということは、利用者さんにとってある程度の自由があり、生活の質を下げないことにも繋がります。

  • 転倒しない=安心ではない
  • 安全よりも自立を支える関わりを意識する
  • 「してはいけない」から「しないためにできること」へ

📚 身体拘束を減らすケア実践例(私の経験より)

  • 転倒リスクの高い方に、日中は座位を保持するクッション+ベッドサイドで過ごしてもらい、安心感を確保する
  • ミトンを使わず、爪を短く整えたり、こまめに声掛けすることで、自傷行為を防止する
  • 認知症が進行していた方に「昼夜逆転」のケアを見直し、日中の活動量を増やすことで、夜間の徘徊が減少した

これらは、利用者さんの生活の中に’’活動’’を取り入れてみることで、いい方向へ向かった例です。


🔍 注意点|こんな対応が拘束に当たることも!

  • スタッフの判断で勝手に施錠してしまう→「動けない環境づくり」
  • 「危ないから」と動くことを禁止する→「行動の制限をかける」
  • 本人の意向を無視して体を押さえつける→「意思を無視する」

本人の安全を確保するために“善意で行った”つもりでも、身体拘束に該当することがあります。


✅ まとめとメッセージ

身体拘束は、利用者さんの心と体の自由を奪う“最後の手段”です。
それだけに、判断する側にも「迷い」と「責任」がつきまといます。

ですが、だからこそ、現場の職員が「代替策」や「声かけ」など、ほんの少しでもできることを重ねていくことが、介護の質を大きく変えるのです。

三要件を満たすことって、実はかなり難しいです。知らずに使ってしまっていないか、気を付けてみてください。

一方で、身体拘束という方法が’’絶対にダメ’’なわけではありません。無理せず、選択肢のひとつとして持っておく必要はあります。その際に正しい知識が必要となるのです。

ぜひ、あなたの現場でも今日からできる“ひとつの見直し”をはじめてみてください。

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