ボディメカニクスの基本原則と介護現場での活用方法

介護をラクにするヒント

今回は、介護の現場で知っておくべき「ボディメカニクス」について解説していきます。これは自分の身体を守るうえで必須級の知識ですのでぜひ参考にしてみてください。

👉移動・移乗介助についてはこちらでも解説しています。

🔔ボディメカニクスとは?

ボディメカニクスとは、介護や看護の現場において、身体に負担をかけず、効率よく動作を行うための“体の使い方”のことを指します。

介護職員が無理な姿勢で動作を行うと、腰痛や関節痛などの職業病の原因になります。

私が介護の仕事を始めたころは、まだこの言葉が浸透しておらず、指導の際に教えてもらうこともなく、知りませんでした。知識もなく、新人の頃は「急がなきゃ」という焦りもあり、身体への負担を考えずに介護をしていたので、すぐに腰を痛めました。

しかも、腰を痛めたのは1度や2度じゃありません。正しい知識がなければ、どこかで身体が負担しているのです。痛み止めを飲みながら仕事をすることもありましたが、絶対にしてはいけません。

ボディメカニクスについて知ることで、身体への負担は確実に減らすことが出来ます。体力仕事ではありますが、それは自分の身体を犠牲にするのとは違います。

負担を軽減しつつ、利用者にも安心・安全な介助を提供できるよう、ボディメカニクスについて知ってもらいたいと思います。

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📌ボディメカニクスの8原則

下記が、ボディメカニクスの8原則です。すべてを覚えるのは大変かもしれませんが、1介助につきひとつを意識してみるだけでも、反復になり身につきます。

  • ①支持基底面を広くする:足を肩幅より広げて安定した姿勢をとる
  • ②重心を低く保つ:腰を落とすことで安定性が増す
  • ③重心を近づける:対象者を体に引き寄せて力の伝達をスムーズにする
  • ④大きな筋群を使う:太ももやお尻などの大筋群を活用する
  • ⑤背筋を伸ばす:背中を曲げずにまっすぐに保つ
  • ⑥体をねじらない:動作時は腰をひねらず、体全体を使う
  • ⑦動作はリズミカルに:一気に動かさず、呼吸と合わせて行う
  • ⑧対象者にも協力してもらう:できる範囲で動いてもらうことが大切

それぞれ、掘り下げて解説していきます。

8原則の特徴

① 支持基底面を広くする

支持基底面とは、体を支える土台です。足を肩幅よりも広めに開くことで、土台となる部分が広がり、安定した姿勢を保てます。これによりバランスが崩れにくくなり、思った以上に負荷がかかってしまった場合などでも踏ん張れます。

また、足を開くことで、負担が背中(骨や神経)ではなく、脚(筋肉)に負担がいくため、腰痛などの予防にもなります。

② 重心を低く保つ

膝を軽く曲げて腰を落とすことで、重心が下がり、より安定した姿勢を取ることができます。上半身は上下することなく、お尻から低く保つことを意識しましょう。

ついやってしまいがちなのが、前傾姿勢や背中を丸めるなどです。これは腰の負担がかなり大きいです。上半身に負担がいかないよう、「腰を落とす」意識で体を下げるのがポイントです。また、転倒防止にもつながります。

③ 重心を近づける

いざ移乗介助をを行う時に、利用者さんとの距離が遠いと、腕を伸ばしたり、前傾姿勢になり腰が引けてしまうので、腕や腰に過剰な負荷がかかってしまいます。

なるべく体を近づけ、腕の力ではなく体全体で支えるようにしましょう。移乗介助時に、自分の両腕が相手の背中で結べるくらいだとなおいいです。力の伝達が効率的にしやすくなり、腰痛の予防にもつながります。

④ 大きな筋群を使う

腕の力だけで支えようとすると、疲れやすく腰を痛める原因になります。太ももやお尻、腹筋といった「大きな筋肉(大筋群)」を意識して使うことで、より効率よく、かつ安全に介助が行えます。

特に、早く済ませようと思い、腕の力や上半身をひねるだけなどのコンパクトなやり方をしてしまうこともあるかもしれませんが、長い目で見れば自分の身体を犠牲にしていることになります。

上半身や腰などではなく、筋肉を使うことを意識すると、腰痛などの原因になる神経への圧迫や負担を減らすことができます。

⑤ 背筋を伸ばす

背中が丸まった状態で動くと、背骨に不自然な力がかかって腰痛の原因になってしまいます。動作中は背筋をなるべくまっすぐに保ち、頭からお尻まで一本の棒が通っているような姿勢を意識してください。

これを続けて慣れてくると、体幹も安定してきます。とにかく腰への負担を回避すること、これに尽きます。

⑥ 体をねじらない

介助中に腰だけをひねるような動作はNGです。忙しいときなどはやってしまいがちです。

腰をねじると、関節や筋に無理がかかり、ぎっくり腰や疲労の蓄積に直結します。方向を変えるときは、体全体で向きを変え、正面で向き合うようにしましょう。

特に、移乗や移動の介助を行っている際は、足の向きをしっかりと意識して、どこからどこへの移動に対して、自分の身体も同じように向いているのかを必ず意識しましょう。

⑦ 動作はリズミカルに

動作は一気に行うのではなく、呼吸と合わせて「リズムよく」行いましょう。ここでも急いではいけません。急ぐときは、自分の身体でカバーしてしまったり、基本を忘れてしまう原因になります。

「せーの」と声をかけるなど、相手とタイミングを合わせることで、力みすぎず、安心感を与えられます。焦らず、ゆっくりと。タイミングが合えばお互いに負担を減らすことができます。

⑧ 対象者にも協力してもらう

利用者さんが自分でできる動きがあれば、できる範囲で協力してもらいましょう。「手すりにつかまってもらえますか?」「少し足を出せますか?」など、声かけを通じて自立支援にもつながります。
全てを職員がやるのではなく、共に動くことが大切です。

楽をするという意味ではなく、利用者さんに残っている運動機能を少しでも長く保ってあげることもお互いの負担を減らすために重要なことです。

❓なぜボディメカニクスが重要なのか

介護現場では、繰り返し行われる移乗や体位変換などの動作が職員の体に負担をかけます。

忙しい中で排泄介助を何件もこなしたり、食事の時間なのにまだ誰も起こせていないなど、忙しいときは特に手早く済ませてしまおうと自分の身体で負担してしまうものです。特に、入浴介助は起こすところから体を洗い、服を着てもらうなど体の上下が多く、筆者はよく腰を痛めていました。

コルセットを着けていた時期もありますし、着けないと仕事ができないという職員も結構見てきました。

ボディメカニクスを意識することで、慢性的な腰痛やケガを予防でき、長く現場で働き続けるための基盤となります。これはどの介助にもつながる知識ですので、必須です。

✅現場での実践ポイント

ボディメカニクスは必須の知識ですが、慣れてきたら周りの環境にも目を向けてみましょう。

  • 作業前に足場や周囲の環境を確認:物が落ちていないか?滑るようなものはないか?
  • 利用者さんの状態に合わせた動作の調整:持病や麻痺などがないか?体調は大丈夫か?
  • 一人で無理せず、必要に応じて他職員に声をかける:体の大きい方や重い方は二人体制で対応しましょう。忙しいからと人を呼ぶのをためらってしまうことがあると思いますが、やめましょう。

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📎よくある間違いとその改善方法

例えば「腰を丸めたまま持ち上げる」「利用者を遠い位置から引き寄せる」などはよくあるNG動作です。体への負担が大きく、腰や肩を痛める原因になります。ボディメカニクスの原則を知っておくことで、動作一つひとつに意識が向き、事故やケガの防止につながります。

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🍀まとめ

ボディメカニクスは、単なる“コツ”ではなく、職員の健康と利用者の安全を守るための重要な知識です。日々の業務の中で少しずつ意識を変えるだけで、職場全体の介護力も向上していきます。

私が指導をしていた頃は、とにかく介助をしたときにどこが痛むのかを確認していました。腰が痛むのであればやり方を見直そうと話し、ボディメカニクスについて一緒に学びました。

腰の負担を完全にゼロにすることは、おそらくできません。ですが、長く介護の現場で働きたいのであれば、負担の少ない介助方法は必須になります。

そして、仕事だけがすべてではないはずです。プライベートな時間や、介護現場の一線から退いたときに体を大切に使えるよう、日々のケアに、ぜひ取り入れてみてください。

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