看取り期の家族対応は「正解がない」からこそ難しい
看取りケアに携わる介護職員にとって、家族対応はとても繊細で、かつ重要な仕事のひとつです。
「家族が間に合わなかったらどうするの?」
「どのタイミングで声をかければいい?」
「最期の時間、どう過ごしてもらうのが良い?」
など、様々な課題があり、看取りケアの対応には注意しないければならないポイントは多いです。
私自身、特養で10年間勤務し、数十名の看取りに関わってきましたが、「これが正解」と言い切れるマニュアルはないと感じています。
何年も勤務している職員ですら、看取りケアの対応の仕方が違ってしまう・久しぶりだから忘れてしまっていることがありました。
この記事ではあらためて、現場の経験を通して培った「伝え方・支え方・動き方」の工夫を共有したいと思います。ぜひ参考にしていただけたらと思います。
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家族が間に合わなかったときの後悔と、支えられたときの安堵
ある日、夜勤をしているときに、看取りケアにあたっていた利用者さんの呼吸が浅くなり、血圧が測れなくなってしまいました。最期が近い状態でした。
看護師へ報告し、すぐにご家族にも連絡を行いました。
「すぐに向かいます」と言ってくれたものの、そのご家族は車を持っておらず、深夜帯だったこともあり、到着までに時間が掛かるご様子でした。
血圧が測れない状態になってから1時間ほどで、利用者さんの呼吸停止が確認されました。個人差はありますが、血圧や脈拍などのバイタルが測定できない状態になってからはご逝去まであまり猶予がない状態なのです。
ご家族は明け方に施設へ到着しました。居室に入り、利用者さんのお顔を見た瞬間、嗚咽を漏らし、「間に合わなかった…」「最後にありがとうを言いたかった」と泣き崩れてしまいました。
私が看取りケアを行っているときは、いつも最期はやっぱりご家族と一緒に過ごしてもらいたいと感じています。
しかし、ご家族は仕事をされていたり、家庭を持っていたりと、すぐに来られる・いつでも寄り添っていられる状態であることは仕方のないことです。
間に合わないという事象が起きたときは、いつもやるせない気持ちになります。誰かが悪いというわけではないのかもしれません
私たちはただそばに寄り添い、耳を傾けることしかできませんでしたが、その後、「職員の方が、最期までちゃんと見てくれていたと聞いて安心しました」と言っていただけたのが唯一の救いでした。
家族への連絡と心構えを促す工夫
🔶 連絡タイミングは「早め・段階的」が鉄則
看取り期に入った時点で、まず一報を入れます。
その後、「経口摂取が完全に止まった」「バイタルの変動が増えてきた」といった変化のたびに、段階的に連絡を入れる必要があります。
施設介護では、その窓口を相談員が担うことが多いため、現場の職員であれば、利用者さんの体調をよく観察し、気になったことはすぐに相談員へ報告する癖をつけましょう。
タイミングを見極めることが重要なのではなく、利用者さんが少しずつ最期のときに向かっていることを、リアルタイムでご家族に感じていただけるようにすることが大切なのです。
🔶 「覚悟」をやさしく伝える声かけの例
- 「お食事も水分もほとんど取れなくなっています。いつ何が起きてもおかしくない状態です」
- 「今ならまだ、お顔を見せていただける時間が取れそうです」
といった声かけで、”来るタイミング”を促します。
看取りケアに入った段階で、面会に通ってくださるご家族も多いです。
ご家族が見えた際には、利用者さんとの時間を邪魔しない程度に、ご様子などをお伝えしましょう。
看取り当日の職員の動きと連携のポイント
看取りの日が迫っていると感じたら、職員間でしっかりと情報共有・分担を行いましょう。
🔶 職員の動き(例:日勤帯)
- 看護師:バイタルチェック・状態の観察・医師との連絡
- 介護職:体位交換・清拭・環境の整備・家族への対応
- 相談員:家族の受け入れ・説明・今後の流れを整理
看取り当日の職員の動きと連携のポイント
看取りが迫った当日は、職員間の情報共有と分担が重要になります。
🔶 職員の動き(例:日勤帯)
- 看護師:バイタルチェック・状態観察・医師との連絡
- 介護職:体位交換・清拭・環境調整・家族対応
- 相談員:家族の受け入れ・説明・今後の流れを整理
🔶 環境整備は正しくできていますか?
体位交換や清拭・日々の介助などに関しては、看取りケアに限ったことではないため、普段通りに行えると思います。
現役の介護職員でも出来ていないことが多いのは、居室の環境整備です。また、これは看護師や相談員にも共通して言えることが多いです。
例えば、排泄介助や処置で使用したものが出しっぱなしになっている。ベッドのサイドレールにタオルをかけたままになっている、など。
他には、洗面台が片付いていない。タンスの中に衣類が乱雑にしまわれている、など。
居室を訪ねたご家族が別のことに気を取られてしまう・いやな気分になってしまうことがないよう、居室内の様子は必ず確認をしておきましょう。
🔶 「家族をサポートする」視点がカギ
家族が来たときは、ただ居室に通すだけではなく、
「今は落ち着いています」
「お声がけいただくと安心される方です」
といった一言を添えて差し上げましょう。
看取りケアの説明をし、理解してもらえたところで、ご家族の不安は変わりません。
最期の時間をあたたかく過ごせるよう、職員から声をお掛けすることは、大きな力になります。
最期の時間を一緒に過ごしてもらうための工夫
利用者さんとご家族が最期をいい思い出として過ごしていただけるよう、工夫してもたいらいことがあります。
これは、現場を担当する介護職員だけでなく、全部署が協力をして行うことです。
- 思い出の写真を飾り、好きだった音楽を流す
- 家族に「手を握って声をかけてください」と伝える
- お孫さんや遠方の方に「電話越しでの会話」も提案する
「こんな風にしてあげられてよかった」
「最期を穏やかに過ごせた」と思ってもらえるよう、家族の後悔を少しでも減らす関わりが大切です。
エンゼルケアは「最後のケア」ではなく「その方の人生を整える」
🔶 私が大切にしている3つのこと
- 顔や手足をきれいに拭くときは「ありがとうございました」の気持ちで
- 洋服は、利用者さんがお好きだったものに着替える
- 髪を整え、口元を整える際は「ご家族の目に美しく映るように」
居室全体を落ち着いた空間に整える:カーテン、音、照明など
ご家族が対面したときに「この施設で大切にされていたんだ」と感じていただけるような環境づくりをしましょう。
注意点|記録・感情・トラブル対応
- ご家族とのやりとりには看取り計画書を作成し、丁寧に記録を取りましょう(連絡時間・人数・伝達内容など)
- 職員の感情が乱れる場面もあるが、なるべく落ち着いた対応を意識する
- 万一クレームが発生した際のために、「誰が」「どのタイミングで」「何を伝えたか」を必ず共有しておきます
最期に|看取りは一度きり。だからこそ、職員の対応で心が救われるご家族もいます
看取り期の家族対応はとても繊細で、介護職員として大きな負担もあります。
でも、ほんの一言やひと工夫で、ご家族の心を少しでも軽くできるなら、
それは「その方の人生の最後を飾る大切な関わり」になります。
この記事における看取りケアの方法は、あくまで全体像であり、利用者さんひとりひとりによって、寄り添える形は様々だと思います。
まずは、看取りケアが決まった利用者さんがいた際に、どんな時間を一緒に過ごしてきたかを思い出し、あなたの言葉や思いやりで、ご家族に寄り添うケアを届けてほしいと思います。
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