高齢化がますます進む日本社会において、特別養護老人ホーム(特養)の役割は今後ますます重要になります。10年以上、特養で勤務してきた筆者の経験から、「これからの特養にとって本当に必要なこと」は何なのか?現場目線でリアルな課題と改善の方向性を考えていきます。
1. 特養の現状とこれからの課題
現在、多くの特養では以下のような課題が山積みになっています。
- 慢性的な人手不足:介護施設には配置基準というものがあり、職員1人あたり何名の利用者さんをみるのかが決まっていますが、その配置基準すら満たされていないことがあります。施設にもよりますが、職員1人で10名ほどの利用者さんを見なければならないのが現状です。
- 介護職員の離職率の高さ:仕事のきつさ・忙しさからすぐに辞めてしまう人は多いです。10年務めてきた私の体感ですが、半数以上は3年もたずに辞めてしまいます。
- 重度化する利用者の介護ニーズ:高齢社会を迎え、介護を必要とする方が増えたことで、職員の数が足りない中、様々なニーズに対応しなければならない問題に直面しています。
- 施設の老朽化や設備面の不備:介護施設ほどの大きな建物であると、修繕に莫大なお金が掛かってしまいます。営利団体ではない以上、なかなかお金をねん出するのは難しく、設備などは不具合を起こしていることもあります。だからといってすぐに直せるわけでもないのが現状です。
特養のこうした課題に対応していくには、単なるマンパワーの増強ではなく、「仕組み」そのものの見直しが必要です。
2. 働く職員へのサポート体制の強化
介護の仕事は体力的・精神的に大きな負担がかかります。これが離職率の高さに繋がってきます。
これからの特養には、職員の働きやすさ=介護の質と捉えた仕組みづくりが求められます。働き方を考え、職員の負担軽減を考えなければ、離職は止まらず、なりても減ってしまうのは目に見えています。
👉 取り入れたい改善策
✅シフトの柔軟化(週休3日制度の導入など)
一番難しいですが、一番必要なことです。職員を休ませてあげることです。体力面・精神面のどちらも負担が大きい仕事なので、休息の時間を増やすことで職員の心身が安定します。
休みを増やすなんて難しいと思っている気持ちは分かります。ですが、今現場で頑張っている職員を失いたくないのであれば、しっかりと休日を作るべきです。
管理職の方は、シフトの柔軟化を目標に取り組む必要があるでしょう。
✅ICT・介護ロボットの活用による業務効率化
ICTとは、パソコンやタブレット、インターネット、センサーなどの技術を使って、介護業務を「効率化」「可視化」「共有」する取り組みです。皆さんはChatGPTなどのAIについてご存じでしょうか?委員会の資料やメールのやり取りなど、パソコン仕事をAIに任せるだけでも、仕事の効率はけた違いにあがります。間接業務の時間を減らすことで、職員の負担軽減につながるのです。
✅定期的なフィードバックや面談機会の設置
介護現場では、日々のケアに追われて職員同士のコミュニケーションが取れていないことが多いです。
しかし、現場での悩み・達成感・キャリアへの不安などを言語化する場を持たないと、モチベーションの低下や早期離職につながる可能性があります。
以下の点に気を付けながら、それぞれの職員と面談の機会を設けてあげましょう。
- 傾聴を重視する姿勢:職員の話を否定せずに受け止める。目的は諭すのではなく吐き出してもらうことにあります。
- メモを取り、記録を残す:次回の面談に活かせるよう内容を記録。記録を呼び起こすことで「この人ちゃんと話を聞いてくれているな」と思ってもらうことができます。
- 具体的なアクションにつなげる:課題に対し、本人と一緒に解決策を考える。この時は、自分の成功体験などを話し、イメージしてもらうことが大切です。
- プライバシーに配慮した場所で実施:職員が安心して本音を話せる環境を整備。当たり前のことですが、話しやすい環境を準備してあげることはもちろん重要です。
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3. 利用者との関係づくりとケアの質の両立
効率化や業務削減が求められる中でも、利用者さんとの信頼関係をいかに保つかが大切です。単純に楽をすればいいというワケではありません。
🧩 ポイントとなる取り組み
- ケア記録の簡素化と可視化による時間短縮:ケア記録は時間のかかる業務のひとつです。介護ソフトに手打ちしているのはまだいいほうで、紙に直接書いて記録する施設もまだまだあります。記録を簡素化することで、記録に割いていた10分を1分で済ませることも可能です。
- 余暇活動の充実(音楽、回想法、レク):レクリエーションに頭を悩ませている方も多いと思いますが、スケジュールやレク内容をAIに任せてランダムに組んでもらうことも可能です。
4. 現場主導のマネジメントとキャリア形成
介護現場は、管理者の姿勢で雰囲気が変わります。思っている以上に、職員は上司の事を見ています。これからは現場経験者がマネジメントにも参画し、現実的な方針や改善策を立てていくことが必要になるといえるでしょう。
- 現場から上がった声をすぐ反映する体制
- 主任やフロアリーダーに裁量を持たせる
- キャリアアップの明確なルートを示す
実際の仕事内容やキャリアについては、以下の記事も参考になります👇
まとめ|特養が選ばれる施設であるために
これからの特養には、職員の働きやすさと利用者さんの安心を両立する運営が求められます。介護の質は、現場の環境と人間関係から生まれるといっても過言ではありません。
私個人の意見ではありますが、利用者さんファーストが行き過ぎてもだめですし、職員に重きを置きすぎることもよくないと思っています。利用者:職員:会社=1:1:1のバランスがベストではないでしょうか。
「人材の確保」「ICTの導入」「ケアの質と効率の両立」
これらを見直して改善し、時間に余裕をもつことで、利用者・職員・家族みんなが納得できる施設づくりができるものです。
皆さんが抱えている個人的な悩みや、施設に対する思いはどんなものでしょうか?
今後も現場目線での記事をお届けしていきますので、ご質問やご意見があればぜひお寄せください。
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