今回は、移乗・移動介助のコツについて解説していきます。
なかなか減らない介護現場での事故を防ぐために、どんなことができるでしょうか?
🧭 はじめに:移乗介助は「命を預かるケア」
介護現場で毎日のように行う移乗・移動介助。
「ベッドから車椅子」「トイレへの移動」「入浴前の脱衣」など、数え切れないほどのシーンで必要になるケアです。
その一方で、利用者の転倒や職員の腰痛など、リスクと隣り合わせな業務でもあります。
- 「急に立ち上がろうとして転倒してしまった」
- 「移乗中にバランスを崩して腰を痛めた」
- 「どう支えたらいいかわからず無理をしてしまった」
この記事では、現場でのリアルなエピソードをもとに、「安全」「快適」「負担を軽くする」移乗・移動介助のポイントをお伝えします。
❗移乗・移動介助が難しい理由
利用者の状態変化が大きく影響する
朝は元気でも、昼過ぎには疲れてしまい、立ち上がりが困難になることがあります。また、夜間であれば、眠前薬を飲まれていて足がフラフラなんていう状況も考えられます。
時間帯や天候などによっても、普段できていることができなくなってしまうことがあるのです。
介助を行う際は、一人ひとりの状態に合わせてアプローチを変える必要があります。
介護者自身の身体負担も大きい
腰痛、膝痛、肩の負傷などは、無理な姿勢や力任せの介助が原因です。特に男性に多いですが「時間がないから」「こっちのほうが早いから」と、力任せになってしまいがちです。
時間や業務に追われているときはついついやってしまうものですが、体の負担・故障の原因として現場で非常に多いケースです。
声かけとタイミングを間違えると事故に直結
「せーの」の合図を出すだけでも、利用者さんにとっては大きな違いがあります。特に、高齢であったり何かしらの疾患をお持ちなこともあり、私たちと同じスピード感で動けることはありません。
ただこちらのペースが少し早かっただけ…でも利用者さんに危険が伴うこともあります。
🛠 解決策①|事前準備と声かけの工夫
🔹 介助前の「段取り」が9割
- 必ず移乗先の椅子やベッドのブレーキを確認
- 周囲に物が落ちていないか確認
- 靴・スリッパが脱げやすくないかチェック
慣れてくると、細かい部分の確認は飛ばしがちです。たかが数秒、されど数秒です。早く行動できたところで、次の業務に大した差はでませんので、必ず確認しましょう。
’’事故を起こした/対応が雑で利用者さんの信頼を失った’’のほうが、明らかに損な行動になってしまいますよね。
🔹 声かけの例:「次、ベッドに移りますね」「立ち上がりの時は私が支えますから安心してくださいね」
安心感を与えることで、利用者さんも協力しやすくなります。体を預けるということは、このうえなく不安になるものです。これは相手が高齢者だからではありません。
声掛けから工夫をして、相手の気持ちを尊重して差し上げることで、協力動作を促すことができたり、次の行動で息を合わせやすくなります。
🪑 解決策②|正しい介助姿勢と動き
🧠 ボディメカニクスの8原則とは?
現役の介護職員であれば、聞いたことはあると思います。ですが、うろ覚えであったり、なんとなく取り入れている方も多いのではないでしょうか?
介護現場で移乗や体位変換を行うためには、「ボディメカニクスの原則」を知っていると知らないとでは、身体への負担が大きく違います。
ここでは、基本となる8つの原則をご紹介します。
知っている方も初めて見る方も、ぜひ参考にしてみてください。
① 支持基底面を広くとる
→ 足を肩幅程度に開き、安定した姿勢をとることで、バランスが取りやすくなります。
② 身体の重心を低くする
→ 膝を軽く曲げて腰を落とすことで、重心が安定し、安全で力強い動作がしやすくなります。
③ 重心を対象に近づける
→ 介助対象者に体を近づけることで、筋力を効率的に使え、腰や背中への負担を減らせます。
④ 大きな筋群を使う
→ 腰よりも「脚」「お尻」「太もも」など大きな筋肉を使うよう意識すると、疲労や怪我を防げます。
⑤ 水平移動を意識する
→ 真上に持ち上げるのではなく、なるべく水平移動にすることで、無理な力がかからずスムーズな介助が可能になります。
⑥ 動作はリズムよくスムーズに
→ ゆっくり丁寧に行うことを心がけ、急な動きや引っ張りを避けることで、利用者の不安や負担も軽減されます。
⑦ てこの原理を活用する
→ 自分の体を支点にし、てこのように動かすことで、より少ない力で対象者を動かせます。
⑧ 対象者の動きに合わせる
→ 利用者本人の「動こうとする力」に合わせて補助することで、スムーズかつ自然な介助ができます。
💡ポイント
これらの原則は、介助者自身の体を守るだけでなく、利用者にとっても安心できるケアにつながります。
仕組みを理解していることでスムーズな介助を行うことができるようになるので、繰り返し学び、習慣として自然に使えるように意識してみましょう。
💡 解決策③|福祉用具の活用と職員間連携
🔹 スライディングボードやリフトの活用で、事故も腰痛も減らせる
利用者さんによっては、身体が大きかったり、足に力が入らず、移乗の難しい方もいます。職員2人がかりで介助をする対応もいいですが、介護職員が無理をしてケガをするくらいなら、用具を使うのが賢い選択です。
無理せず、施設内で相談してみてはいかがでしょうか。
🔹 チーム内で“声かけの統一”が重要
「せーの」のタイミングがずれると、それだけで危険が増します。言葉や動作のルールを決めておきましょう。これは自身の担当するユニット内のオリジナルのルールでいいと思います。
⚠ 注意点|ヒヤリハットの共有と記録の徹底
事故発生時の事故報告書と、ヒヤリとしたときに書くヒヤリハットというものがあると思います。
次回に活かすという意味ではどちらの資料も大切です。感覚として気を付けるのではなく、言葉で残すことで、第三者が客観的に知ることも出来ます。
「ほかの職員も、自分のようにミスをしてしまうかもしれない」と思えるものは、共有する意識を持ちましょう。
- 「ちょっと危なかった」体験を共有し、同じミスを防ぐ
- 転倒・転落があった場合は必ず記録と報告を
- 利用者の状態変化が見られたら、すぐにカンファレンスなどで共有する
📝 まとめとメッセージ
移乗・移動介助は、毎日繰り返す作業だからこそ、
“慣れ”が油断を生み、“慣れ”が事故を引き起こすこともあります。
だからこそ、「ちょっと面倒でも声をかけてから支える」「ボディメカニクスの原則をおさえておく」など、
一手間をかけることが、利用者さんの安心にも、自分の安全にもつながります。
介護の仕事は、何かと腰へ負担のかかる作業が多いです。自分自身を守るためにも、正しい知識をもち、介助にあたって頂きたいと思います。とくにボディメカニクスはしっかりと学んでおきましょう。
本ブログでも深堀する予定ですので、みなさんからのご意見・ご相談などお待ちしております。
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